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伊藤 洋子 の 詩

七月二十九日

電話をかけているのは
私ではない
この病院の婦長だ
私は病室に入れない
自分の家に電話をかけることもできない
昨日
姉と私はエプロンをつけたまま
担当の医師に呼ばれた
午後五時過ぎの廊下
オ気ノ毒デスガ
アナタ方ノオ母サンハ
後一週間グライデス
ドウカ
ソバニイテ話ヲ聞イテアゲテ下サイ

あれは確かに昨日の話
一週間といわれたのに

婦長さんは私の家へ電話をかけて
あなたが死んだことを伝えている
病室ではあなたの湯灌と化粧が行われている
私の居られる場所がない
私の話す言葉もない
まるで産まれたばかりの子供
私は今あなたから産まれたのかもしれない
あなたの死から私が産まれた
私の誕生日は本当は今日かもしれない

再び入る病室
そこにはあなたはいない
棒紅を持たされた私の手
それがあなたの唇だった部分を染める
私は生きたいのだろうか?
私は生きられるのだろうか?
化粧が終わるより速く
ここを離れていってしまった
あなたの年齢まで

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