TopIto, Yoko 伊藤 洋子

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伊藤 洋子 の 詩

五月八日

五月八日
降り始めた雨
空っぽの胃袋の中
溶けていく
金色の泡たち
新宿の南口
雑居ビルの三階
小さな
劇場兼居酒屋

三十歳になって
十日以上すぎた
わたしは
テーブルから
離れたところで
声を出す

五月八日
明日
あなたの
六十三回目の誕生日
一九八六年
七月
草の上に
散らばっている
あなたの


ねまきの切れっぱし
拾い集める
わたしの服
夜の色
三十七年間
あなたの胸の中で
呼吸をし続けて
大きくなった
一匹の赤い虎
五十六歳の
肉だけを喰らい
朝もやの中へ
消えてしまった
五月八日
わたしは
テーブルから
離れたところで
声を出す
あなたと
一緒に歩けなくても
あなたの姿を
人に見てもらえなくても
五月八日
夜が明けたら
わたしの中のあなたが
新しい年になることを
はっきりと確かめるため
声を出す

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