TopIto, Yoko 伊藤 洋子

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伊藤 洋子 の 詩

星を残して

天に星が残っているうちに
男は帰っていく
素肌にまとった毛布を放り
近づいていく鏡の方向
わたしの首には顔がついている
わたしの胸には顔がついている
わたしの背中には顔がついている
わたしの腹には顔がついている
わたしの腕には顔がついている
わたしの脚には顔がついている
その瞳はどれも
まつげが長くて二重瞼だけど
頭の中はからっぽさ
口にはピラニア並みの歯がついていて
男たちをかみ殺してきた
女たちをかみ殺してきた
他人の血の匂いが混ざって
自分の匂いを失う

12の瞳からいっせいに
水滴がこぼれる
さっきまで大きな腕に包まれて
季節を忘れかけていたのに
冬を飼い慣らすことにかけては
遅く生まれてきたやつらの方が
きっと上手(うわて)なのさ

幼い姉妹が幾度となく試た行為
切られていく人形の髪
彼女たちにとって稀な
共通の習慣であり快感
人形の髪が
金髪(きんぱつ)に限らず黒髪(くろかみ)や栗毛(くりげ)、白髪(しらが)であっても
その頃できた水痘が治らず
しだいに大きくなって
顔になる
髪を切られた人形の顔が
この世に残されたわたしの全身を縛る

やつらが朽ちる時
無数の蛆と腐臭がわたしを飾るだろう
わたしが朽ちる時
やつらが水に溶けてもなお
違う誰かの肌を探すだろう
それとも
なにかの間違いで
わたしが甦る日を待ってくれるだろうか

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