もう16年、左の耳の中にドン・キホーテが住みついている。早いものね。初めの頃は、追い出したくて、追い出したくて、追い出したくて、びっこ坂のそばの耳鼻科まで行った。うなぎ屋と天ぷら屋がやたら多く、道路が異常に狭い町。でも、嫌いになれないんだ。人を生かすことも殺すことだってできちゃう町だからね。覚悟しておいてもらいましょう。耳鼻科のおじいさんも、さすがにあんたをつかまえられなかったね。ただの外耳炎だとか判断して、結局、2週間バスで通院したんだっけ? 青と赤の線の入ったバス。そう、お風呂に入ることを止められてたんだ。食べちゃいけないものは、餅米、栗、落花生。お尻に注射されそうになったのを看護婦さんのはからいで、何とか腕でおさまった。
ところで、相棒のサンチョ・パンサはどこではぐれてしまったの? わからない? でもさ、あいつのことだから、きっとどこかで生き延びているよ。一度、あんたすごく暴れたね。11年前の晩夏。あの時は、医者に行かなかった。自宅で治療したんだ。メンタームか何かを使ってね。大好きなプールもおあずけ。あの年のプールは、塩素が強すぎると、髪はバリバリ、目は真っ赤。そして、あんたの叛乱と、最悪だったね。中耳炎の男の子二人、生理中の女の子一人と一緒にひざを抱えて、体操服でぼんやりと時間がたつのを待っていた。
帰れないドン・キホーテ。逃げないドン・キホーテ。今も、左の耳の中にいる。眠れないドン・キホーテ。だけど今夜はおやすみ。あんた好みの娘はいつでも用意してある。待ちこがれた唇は決して相手を離さない。食べないドン・キホーテ。だけど明日はお食べ。朝になったら、あんたの好きな料理の匂いを流してあげよう。
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