Ito, Yoko 伊藤 洋子

Yoko's poem works

伊藤 洋子 の 詩

失礼します

風が吹いている夜
銀色の風
そんなに眉を寄せて恐い顔しないで
と言ってくれる友人の声が
シャボン玉となって消えていく
他者から見れば
わたしのスクリーンは
平行四辺形

彼や彼女が銀盆にのせた
〝お待たせしました〟
では決してなく
〝失礼します〟 という科白
いつだって
ミルクの湯気にのって
店から街へ流れる
ソーダ水の泡に溶けて
訳もなく体中にしみる

お待たせしました
お待ちかねです
待っていたのに
失礼します
の一言で時は逃げていく

明日は雨
月のまわりにかかる傘
明日は雨
屋根の上で耳をこする猫

風が吹いている夜
銀色の風
いつまでもカードを伏せていたって
赤い瞳の天使は離れていく
誰の手にもつかまらない
他者が認めるまでもなく
私のステージは
砂時計

彼や彼女が手放す紙
インクだらけの憂鬱
いつだって
見送りなんて省略
家から街へ捨てられる
青い夢に紛れ込んで
訳もなく体中にしみる

明日は雨
誰も見なかった夕焼け
明日は雨
まぶしすぎる星

※ この作品は [銀色の風] を改作した [２２時に贈る仮面] をさらに改作したものです。

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