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伊藤 洋子 の 詩

木槿のそばに立つ (むくげのそばにたつ)

あなたが昨年の十二月迄
毎日 入っていた
あの狭い台所

何人かが入りこんで
天ぷらを揚げる匂いがしている
お新香(しんこう)を刻んでいる音がしている
四人……五人
あんな所によく入れたものです
ねぇ ちょっと
花ビンはどこにあるのかしら?
せっかくお花持ってきたのに
ほら もう しおれてきちゃうでしょう
お勝手の方は
あんたたち今日はいいわ
それより洗濯でもしたら
どうせ たまっているんでしょう

自分の家の台所にも入れない
今年の一月から
姉がほとんどやっていた
今 台所にいる四人か五人のおんな
あなたとは血のつながりのない人


私とももちろん他人である
あなたと血のつながりがあるのは
夜になると集まってきて
杯を握りしめる彼女たちの夫
姉と私がいくつ離れていようと
あの人たちにはどうでもいいことだ
だから時々間違われる
姉と私の名前を
おぼえたくない者は
どちらのことをも
「おねえちゃん」と呼ぶ
私のおねえちゃんは
今 洗っている
あなたが着ていたねまきを
洗って
干して
明日 入れてあげるのだ
あなたの柩の中に
狭い台所の電気が消えて
誰かの声が私たちを呼ぶ

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