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伊藤 洋子 の 詩

三十五度の冬

戌年の二月
ふとんの中から窓を見る
静かでまぶしい
斜めに降る雪
私バス千葉交通が
八時になる前の凍った道路の上を滑る
その後ろに続く一台の乗用車
五十四歳になったばかりの父が運転している
二十二歳九ヶ月のわたしは
シートベルトを締めないで助手席にいる
寅年の一月
白い乗用車
近づいてくるバスの青と赤に呑み込まれる
あの日
額をちょっと痛めただけで
わたしは今日まで歩いてきた
ごま塩だった父の髪も
今は窓の向こうと同じ色

わたしは三十五度の体温のまま
今日まで歩いてきた
眠りたくても眠れなかった
寅年の一月
原っぱに建てられた小さな家
瞬く間に炎に包まれていく
眠りたくてもなかなか眠れなくて
やっと眠れた後に再び目覚める
炎の色が鮮やか過ぎて目覚めてしまった
夢はいくつもいくつもみた筈なのだ
これだけしか思い出せない
夢がわたしの中に住みつき始めた
燃えていくのが自分の家だと思い込んでいる
わたしの中で夢が化膿してくる
次の寅年まで
四年待たなければいけない
わたしは冷えた体のまま
どこに枕を置いても
眠れない夜を過ごす

眠れない夜を過ごす
ひびわれた両手で薄汚れたふとんを
ひっぱりながら
窓をみているうちに
私バス千葉交通は寅年から戌年を抜けて
滑っていく
三十五度のわたしの体の上を

雪は斜めに降っている


※ 作品中に登場する「千葉交通」は、もとは「成田交通」であったという。(編者)

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