細長く残酷な
あなたのからだ
湿った風につれられて
扉の外へ消える
横たわったままで数時間
いってらっしゃい
とも
さよなら
とも
言わないわたし
言えないわたし
この小さな空間
あなたが産み
あなたが葬った
透明な犬たちの骸(なきがら)でいっぱい
酸っぱい遠吠えだけが
からだの内側から響いてくる
闇に向かって伸びていった
彼らの牙と汗と涙
毎朝
蛇口をひねる時
赤茶けた水といっしょに
流れてくる
透明な犬たち
京成電車が走り抜ける
荒川
中川
江戸川
どこを見ても
必ず浮かんでいる
還暦を迎えた父
盛んに水にこだわる
実家の水は
今のままでも
充分飲めたのに
浄水器などつけて
いっそう
飲みやすくなった
水を配る父
いっそう
帰りにくくなった
娘
水に帰るために
水を飲む
水になるために
水を飲む
コップの中に浮かんでいる
たった一匹の犬
水無月の宵
父が幾度か妊(みごも)り
ためらいながら産んだ
透明な犬たちの中の
最後の一匹
*** [扉] の字の一画目は、本当は [一] ではなく [ノ]。
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