TopIto, Yoko 伊藤 洋子

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伊藤 洋子 の 詩

銀の馬

ねずみ色の雨の中から
あいつの遺体が発見される
一九八三年九月三〇日
午前十二時五分三二秒
黒い服を一枚も持っていない
あたし
前もってくすねておいた
まあるい月でパンケーキを焼く
最初で最後の二〇歳の誕生日
似合いもしない白いシャツに細いネクタイ
無口になったあいつ
人込みの中が嫌いで
銀の馬に跨って暴れてた
血の匂いのしみついた少年
ほんのわずかの間に
四角い中に収められてる

あたしの口の中で
老婆を襲い
赤ん坊を喰い
赤い空き罐を握り締めて
それを交互に鼻に近づけた
駅の濡れた階段
始発が来るまで腰かけていた
ひつじが一匹 ひつじが二匹
ひつじが三匹 ひつじが四匹
さあ 今はエスカレーター

銀の馬が家の外で待っている
しぶるあたしのパジャマのすそを
軽く引っぱる
パンケーキに姿を変えてしまった
まあるい月
あいつの十九の顔を知っている

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