TopIto, Yoko 伊藤 洋子

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伊藤 洋子 の 詩

狩りの一族

野中の一軒家が燃え出した
速く逃げるんだ
自分の家に火がうつらねえうちに
速く逃げるんだ
泣いてる赤子なんて放っておいて
速く逃げるんだ
寝起きの悪い女の背中を踏んづけて

わたしは生まれた家に火をつけている
緑色の小さな体で
汗と涙と唾液を表に出しながら
一番初めに眠りについたふりをして
裏口からこっそりと抜け出し
葡萄棚の上で
灯が消えるのを確認する

一九八三年 九月七日
葡萄狩りから帰ってきた母
原因不明の高熱で横たわっている
二十歳の娘をひょいとつまみあげ
古々しい虫カゴの中へ放り込んだ
その時
全身が淡(うす)緑色に染まってしまって
今も治らない
永遠に羽根の生えない背中を
三日月の方へ向けて
わたしは生まれた家に火をつけている
母の胸の真ん中にある
大きなほくろが燃えていく

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