Ito, Yoko 伊藤 洋子

Yoko's poem works

伊藤 洋子 の 詩

かくれんぼ

お宅に頼んであった反物
さっそくだけど返して下さい
誰か他の人に縫ってもらうから
縫えないあなただってまさか
置いてある場所くらいわかるでしょう

反物を預ってきて
縫って
渡して
三十数年

一度として
顔をみることができなかったのに
あなたの兄や妹は
いつでも
あなたの邪魔をする
子供の姿のままで
あなたの指から針を奪う
おにごっこ
かくれんぼ
いい加減にしてよ

ひとりの時から
それだけで食べてきたのに
書類の職業欄に記入する時は
専業主婦
家事
無職

おまえたちと同じように
とうちゃんの
扶養になっているんだから
余計なことは
書いちゃだめだよ

盆も正月も日曜も祭日も
一切
無視して縫ってきたのに
人に使われることもなく
人を使うこともなく
縫ってきたのに
勤め人である配偶者の手にかかると
無職と記されてしまう
年数の長い仕事
あちこちで形としては残っている

縫えないあなただってまさか
置いてある場所くらいわかるでしょう

わかるくらいなら
とっくに仕事を奪っていた
わかるくらいなら
夏にひとりで逝かせはしなかった
わかるくらいなら
こうして書き続けることもない

もうすぐ夏
母の日と誕生日が
ずれたり重なったりの繰り返し
いい加減にしてよ
あなたは
もう
隠れている必要がない

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