踏み切りの音がするのに
電車は来ない
両手で靴を持って歩いている
足の裏から流れ出た血の跡が点々と続いている
夜なのか朝なのか
わからないこの道を
いつも歩いている
晩春(はる)とも初夏(なつ)ともつかないこの道
平べったい車の中から
人参色に髪を染めた鴉たちが転がり出る
体が一気に冷えていく
放り出される靴
四肢をつかまれている
わたしの姿が
いつのまにか母の姿となって
横たわっている
なかば諦め顔で車の中にいる父
わたしは連中のひとりとなって
黒ずくめの服で
母の腕をとらえていた
晩春とも初夏ともつかないこの道
父が車を走らせる
体が宙に浮く
足の裏以上の血の量
にぎやかな声
七十を越した祖父が縁側にすわっている
寝息をたてている母のそばに
赤く水分の少なくなったわたしが
形を整えられて寝かされている
明日になったら
親せきにあずけられていた
姉が帰ってくる
玄関の隅に転がっている靴を
照れ隠しに磨く父
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