TopIto, Yoko 伊藤 洋子

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伊藤 洋子 の 詩

山のふもとに
大きな猫が住んでいる
あしのない人々は
その背中に乗っかって
仕事や学校へ通う
一度
滅びてしまって
十三年振りに
蘇った
その猫を
懐かしがる者は
ほとんどいない
猫にしてみれば
あの時の顔も
今の顔も
全部
同じに見える
つめでひっかいて
きばでかんで
ざらざらの舌でなめて
やっと
自分の背中に乗せる
傷だらけの顔や手足
魚臭い唾液にまみれて

財布の中味は
猫が到着する前と
全く変わらない
これからも
猫に乗せてもらうか
自分で車を持つかは
電車の中で考えればよい
読みかけの雑誌を
ちょっと丸めて
隣で挑発的に
口を半開きにして
眠っている
フラッパーヘアの女から
瞳をそらす振りをして
電車の中で考えればよい

人間の肉を喰いたくはない。人間の血を飲みたくもない。人間の持っているというお金にはそれ以上に興味がない。

傘をさして猫を待つ人
車に乗っている人
バイクに乗っている人
自転車に乗っている人
歩いている人
どんな方法でも駅に着く
猫に駅は見えない
駅にも猫が見えない

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