TopIto, Yoko 伊藤 洋子

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伊藤 洋子 の 詩

斑猫 (はんみょう)

栗をおとす
黄色い斑猫の通った所へ
手にとり
匂いを嗅ぐまでもない
心の中では拒否している
——くさいか?
と言ってくれた老人は
赤土の下で眠っている
結局
食べたのか食べなかったのかなんて
たいして問題ではない
あれ以来
斑猫という虫を見たことがない

自ら七難八苦を望んだ
山中鹿之介は
斑猫の毒によって
殺められたと言う説もある
私も十八の頃
日記の中で
七難八苦を望んでいた
青いインクの走り書き
それでも机の中には
しっかりと
縁結びのお守り
松陰神社に行った時
無意識に買ったものだ

斑猫は未だ現れない
栗の季節はもうすぐなのに
人のいなくなった家では
猫だけが暴れまくっている
猫は飼われているという意識がない
猫にはなりたくない
斑猫をさがすなら
斑猫になってしまった方がいい
毒で滅される前に
自ら毒になってしまうのも面白い


***
もし読者の中に「斑猫」という甲虫をご存じなく何かそれらについて知識を得たいと思われる方がおられれば、我々は直ちにいくつかの参考資料を挙げることができる。が今回は、一九九一年中頃の「くらしの昆虫記」(朝日新聞朝刊)を指摘するに止めよう。(編者)

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